月明かりに魅せられて

薄氷の上の決意を愛おしく想う

惹かれるには、今この瞬間でなければいけなかった

人生で初めて、中丸雄一くんを「ゆっち」と呼んだ。

 

 

 

いったいこいつは何を言っているんだ、と思われても仕方がないだろう。

端的に何が言いたいかというと、人生で初めて「推し」を「愛称」で呼んだのだ。

 

具体的な私の推しの名を挙げながら例えると、前野智昭(声優)は前野さん、カミュ(うたの☆プリンスさまっ♪)はカミュさん・カミュさまと呼ぶ。

前野さんには「まえぬ」という愛称があるが、まえぬと呼ぶことは決してなかった。

例に漏れず、中丸雄一は中丸くん、亀梨和也は亀梨くん、上田竜也は上田くんと呼んでいる。

例外もあるが、基本的に私にとって「推し」となる人物はだいたい一回り以上年上なこともあるので、何だか妙な気恥しさを感じ、なかなか愛称で呼ぶことはなかった。

たまに人に話題を振られて、推しに対する「愛のレベル」をより高い表現をしたかったがために便宜上愛称で呼んでみたことはあったが、なぜだかよくわからない違和感を飲み込むことはできなかった。

 

ところが先日、私はついにその愛称を口にしたのだ。幾分落ち着いて観られるようになったKAT-TUNのライブDVDを観ながら。

あれ、私は今何と言った?一瞬、自分が何を口にしたのかわからなかった。

だが確かに、私の口からこぼれたのだ。「ゆっち」という言葉が。 

今まで歩んできたオタク的人生史上、どこを探しても「推し」を愛称で呼ぶという行為に及んだ記憶がなかった。

この事実は人からすればあまりにも矮小な出来事だが、私からすればもう大事件だ。

感動なのか、愕然なのか。よくわからなかったが、その衝撃的事実に軽く一時間は震えていた。

ついに一線を越えたのか、と。

 

 

 

私はKAT-TUNに惹かれてからというもの、「好き」に理由を見つけてあげるようになった。

これまではただ深く考えずに推しに対して「あぁ、好きだなぁ」という漠然とした感情を抱いていた。

決して悪いことではない。「好きに理由はいらない」とも言うのだから。結局のところ、理由があろうがなかろうがどちらでも構わないのだ。

ただ私は、途端欲しくなってしまったのだ。

「なぜこんなにも惹かれるのだろう。好きになってしまったのだろう」と。

 

思い返す、少し前のこと。

ジャニーズには関心をあまり持たない知人に「最近、KAT-TUNが好きなんです」と漏らしたことがある。

『なんでKAT-TUN?色々あったグループだし、なんだか今さらじゃない?』

その知人は大変良い人なので、別にその言葉に悪意などは一切ないことは理解できる。

ただ、その一言はちくりと胸に違和感を残すには十分だった。

確かに今、もっと名高いアーティストも、若く新進気鋭のアーティストもこの世に溢れている。

そんな中で、私は何故今『KAT-TUN』というグループにどうしようもなく惹かれ、その手を取ったのか。

 

特定のアイドルを好きになる時、その時自らが置かれている状況、心境、タイミングすべてが反映される』というツイートを先日拝見した。

なるほどその通りだと感心せざるを得ないと同時に、抱いていた疑問の答えがまた一つ出た。

どうしようもなく惹かれたその時、精神的にかなり追い詰められた状態で生活をしていたので、そのあまりに眩い光に焦がれたのかもしれない。

どれだけ降り注ぐ苦難に抗い、立ち上がり、まっすぐ光へ突き進み続けるその高潔な姿に惹かれたのだ。確かな熱を帯びたその歌に惹かれたのだ。

 

 

 

つい先日、2019年7月にリリースされたKAT-TUNの最新アルバムIGNITEを購入した。

 

通常版のボーナストラック『We are KAT-TUN』を聴いたのだが、これがまた衝撃的な楽曲だった。

簡単に言うと、KAT-TUNのライブあるあるを綴った歌詞なのだが、「かっこいい」というイメージの強いKAT-TUNがここまでふりきってユーモアたっぷりの歌を歌うものかと。

「ゆっち」「かめちゃん」「たっちゃん」と三人の愛称を呼ぶコール、そしてKAT-TUNに対して「好き好き大好きすごい好き」と連呼し、「偶然出会えた王子様」と呼べ、「貴方に出会うため」と叫ぶことができるコールがある。

ファンにとって無条件に愛を叫べる楽曲があるという途方もない事実に、楽しさより嬉しさが勝って、思わず感極まって泣いてしまった。

何よりもグッと来たのが、この楽曲の作詞がメンバーである中丸雄一くんによるものだということ。

外ならぬKAT-TUNによって用意された贈り物のような言葉を以て愛を謳うことができるこの幸せを、どうやって飲みほせばよいのだろうか。

 

 

 

今もまだ、推しを愛称で呼ぶことは極端に少ない。

先日放送された『FNS歌謡祭 第2夜』で、美しさとかっこよさと可愛さと愛しさが衝突事故起こしていると錯覚するほど圧巻のパフォーマンスを見せてくれた亀梨くんに対して、思わず感極まって「かめちゃん」と瀕死の状態で絞り出せたくらいだ。

未だ気恥ずかしさは残る。けどその愛称を口にする度に柄にもなく己は照れてみせるのだ。

「へへ、ゆっちかぁ。かめちゃんかぁ。たっちゃんかぁ」と。

 

そうしながら、きっと遠くない先へと想いを馳せる。

まだ見ぬ未来のKAT-TUNのライブで『We are KAT-TUN』のコールだけでなく、うちわを握りしめながら、ペンライトを振りながら、惜しみない愛を以て「ゆっち」「かめちゃん」「たっちゃん」と呼べる日を心の底から夢見ながら。

 

最初は怖くて仕方なかった海賊船の上で、居心地の良い波に揺られながら。

きっと今日も私は偶然出会えた王子様に向かって、『We are KAT-TUN』のコール練習に励む。

この世で一番好きだから。